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August 31, 2010

「瞳の奥の秘密」 熱い国から来た映画  

☆☆ 好き好きだとは思いますが、この主人公の顔、ちょっと暑苦しくないですか。ひげもじゃのラテン系の顔って、クソ暑い夏に見る顔じゃないよなあ、と思ったのは、ぼくだけ?そんな邪心に満ちた気持ちで観たものだから、映画の中で毎日駅に行く男が登場すると、“お前は忠犬ハチ公か”と毒づいたり、“女性の胸元を見ただけで犯人だってわかるなら男はみんな犯人だよな”といきまいたり、ついついチャチャを入れたくなってしまいました。でも、そんなよこしまな考えに囚われず、真面目な態度で接すれば、殺人の被害者女性とその夫、その殺人事件を担当した裁判所の男と女の二つの愛が25年の時を超えて交差する、いたって重厚なサスペンス映画でした。アルゼンチン映画というのもうなずける情熱が映画自体の描写にも登場人物たちの行動にも奥深くうずまいて、なかでも特筆すべきは、女性判事補役のソレダ・ビジャミル。若い時と二十五年後と、それぞれの時代の同一人物を演じているのですが、みごとに演じ分けていて、どちらもまったく違和感がない。いったい、どっちが本人の年齢に近いのかわからないくらいです。彼女に惚れている主人公が、暑苦しい顔のわりに、自分の気持ちを打ち明けないというのは、もったいない、じれったい。女でなくても、怒るよね。一方で、殺人の犯人がああいう目に遭うというのは、そう驚くほど独自性のあるどんでん返しではないけれど、主人公に向けて最後に発する一言、あの一言には胸を突かれました。たしかに、ああいう目に遭えば、うらみつらみより、ああいうことばが口から出てしまうのかもしれません。こじつけを言えば、主人公だって、声をかけられなかったばかりに恋に逃げられたとも言えるわけですから。サッカー場での追跡劇のような派手な見せ場もある映画ですが、やっぱりあの地味な一言が心に残ります。

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August 29, 2010

「カラフル」 玉電

☆☆☆ その昔、渋谷から二子玉川までのんびり走っていた路面電車の玉電。その姿は素朴でありながら優美さも兼ね備え、あわてず騒がず、わが道を行くその走りはいまでは伝説にさえなっています。その玉電が2010年のアニメーション映画で復活するとは思いもしませんでした。「電車でGO!」の玉電編が出たら絶対買っちゃうのになあ、と常日頃から思い続けている者にとって(乗った経験があるのではなく、乗ってみたいなあという意味ですよ)、支線の砧線とはいえ、玉電が走る風景が現れたことに、まず嬉しい驚きを感じました。もちろん、物語は現代の話なので、玉電は映画の中でも現在形ではなく、ありし日の姿として現れるのですが、その線路跡を歩くことで、少年の荒れた心の傷が癒やされていくきっかけになっていくという、なんともニクい設定。廃線跡でなくても、知らない場所をあてどもなく歩くうちに、心の中にいままでにない気持ちの余裕が生まれてくるという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。しかも、友だちと一緒ならなおさらかもしれません。このエピソード、森絵都の原作小説にはなかったような気がするので、映画独自の発想なのでしょうが、いまや名作と化しつつあるお話に違和感なく溶け込んでいるのだから、まいったというしかありません。もちろん、この場面に限らず、原作の肝をはずさず、日常の情景を丁寧な描写でアニメ化した原恵一監督の手腕は評価するしかなく、主人公が自分の行きたい高校のことを必死で訴える場面など、へたな劇映画などかなわない感情がこみあげてきて、思わず涙が出そうになりました。そう、すべては日常の延長の中にあるのです。日常の空間をコトコトと路面電車が走っていたように。

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August 22, 2010

「ヒックとドラゴン」 海賊、大空で闘う。

☆☆☆ 海賊の島を襲うドラゴンたちを手なずけてペットにしてしまう少年の話。いまどき、ドラゴンとはいえ、野生の生き物を人間のペットにするってどうなの?生物との共生をはかるというのがいまの流行じゃない?つまり、ドラゴンは野生のままにしておくべきだった、という考え。それは、21世紀的に正しい。でも、この映画って、海賊映画なんですよね。血沸き、肉踊る海賊映画が妙に訳知りになっても困るわけで、ぼくはこの映画のおおらかな展開を支持したい気持ちのほうが強い。最後に少年に残酷な試練が待ち構えていて、しかもそれを笑い飛ばしてしまう。これもまた、いまの風潮から考えればいかにも乱暴な展開だけど、海賊映画としては画竜点睛(ドラゴンだけにね)。これくらいの荒っぽさがないと、冒険映画の醍醐味が失われてしまうんじゃないでしょうか。自立するとは何かを犠牲にすることでもある。つまり、この映画、伝統的な海賊映画の精神をきちんと踏まえた上で、その海賊が大空で闘うという、最新3D技術を縦横に生かせる新たな設定が考え抜かれている。大船団の迫力も凄いが、それ以上に、雲の上を飛ぶドラゴンの疾走感、爽快感。これを3D立体映像で見せつけられてはたまらない。ドリームワークスから、とうとうピクサーアニメにもジブリアニメにもひけをとらない映画が誕生。いや、「トイ・ストーリー3」も「借りぐらしのアリエッティ」も含めて、この夏のアニメーションの質の高さは尋常ではなく、映画界の才能はすべてアニメーションに飲み込まれてしまうんじゃないかという脅威さえ感じます。一体、映画の世界はどうなっていくんだろう。

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