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January 21, 2006

「博士の愛した数式」 SFの匂いがする

☆☆☆☆ 「惑星ソラリス」とか「2001年宇宙の旅」とか、質のいいSF映画には何か人間界のどろどろを超えた静謐な瞬間が存在していて引き込まれるのですが、「博士の愛した数式」はSF映画でもないのに、そうした透明な空気感が感じられて、それはなぜだろうと思うと、やはり数字という無機質なものが宇宙という無機質なものと近い存在感を放っているからではないか、と思ったりもします。そういった人間の体温の及ばない無機質な世界から人間の体温をとらえなおすというのが、SFの存在意義であるとするならば、この映画もそんな意味の感動を与えてくれるのです。

一方で、数学科を卒業して母校の高校教師になったぼくの友人を思い出したりもしました。彼は大学時代、「数学科が理学部にあるなんておかしい。数学は芸術なんだよ」と言うのが口癖でしたが、いまごろ、成人したルートのように魅力的な授業をしているのでしょうか。まったく、この映画を見た多くの人がこんなふうな授業を受ければ数学嫌いにならずにすんだのに、と思っているかもしれません。

冷静に考えれば、こじつけにすぎないような話なのですが、それを納得させてしまうだけの演出、演技がこの映画にはあります。先日見た「プルーフ・オブ・ライフ」は同じ数学の世界の話でありながら、この、数学を魅力的に見せるという要の部分が欠けていたためにまったく退屈な映画になっていましたが。

成人したルートの話に反応する生徒を見せないとか、深津絵里のような色のついていない女優を持ってくるとか、村山・江夏のような伝説になってしまった人間の話を持ってくるとか、とにかく話を純化する方向へベクトルを向けているので、逆に数字というなんの意味もなさないものが意味を持って輝いてくるという、うなるような構成。もちろん、原作がいいといってしまえばそれまでですが、自然の風景の入れ方といい、吉岡秀隆そっくりの子役を見つけ出してきたことと言い(初登場のシーンではみなさん「純!」と叫ぶはずです)、センスとバランスがいいことこの上ない。浅丘ルリ子がまた複雑な思いを胸に秘めながら決してそれを表には出さない。(「私は罪深い女です」なんていまどき平気な顔して言えるのは彼女しかいません)

2006年最初に見た日本映画が2006年のベストワンになるなんて、楽しみが減ってしまったような気もしますが、それをさしひいても、映画を見続けてきてよかった、と心から思える作品です。

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January 16, 2006

「スタンドアップ」 タイトル考

☆☆☆ 原題を「North Country」といいます。なのに、日本題名は「スタンドアップ」。最近英語題名みたいな日本語題名が増えてきていて、この映画も苦肉の策でこんなタイトルにしたのか、と映画会社の担当者のセンスの無さにがっくりしながら見始めたのですが、終盤になって、この映画のキーワードは確かに「スタンドアップ」だと納得。ところが、見終わってしばらくするうちに、やっぱりこの映画のキーワードは「ノースカントリー」だろうと思い直し始めました。ひとことでいえば、セクハラと戦う女性の話であり、立ち上がらざるを得なかった状況を的確に描いているし、文字通り「スタンドアップ」のひとことで状況が大きく変わっていくということもあって、なるほど「スタンドアップ」にしたくなる理由もよくわかるのですが、もっと大きな視点からみてみると、みんなが知り合いでしかもみんなが鉱山で働かなければならないという、ムラ社会に問題の根っこがあるように思えるのです。そのなんともいえない閉塞感が結局は心に残ります。ある程度選択肢のある職業選択ができない、というところに自由の国アメリカといいながら実は自由がなく、その不満が滓のようにたまって弱い者への陰惨な仕打ちへ向かうという構図。いまだにアメリカは、心は病んだ北の国、「ノースカントリー」なのです。そういう視点から考えると「スタンドアップ」というストレートなタイトルはストレートすぎて原題に比べ含蓄に欠けるのではないというのがぼくの意見です。映画自体は、アメリカ映画の伝統をふまえた非常によくできた映画で、シャーリーズ・セロンをはじめとした俳優陣もすばらしい演技を見せています。最近、「キングコング」のような妙にバランスを欠いた映画がベストテンに入り「シンデレラマン」のような正統派の映画がベストテンから漏れるというおかしな状況が日本の映画界でも起きていますが、こういう正統派の映画が消滅することのないよう、一人でも多くの人に見てもらいたいと思います。

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January 09, 2006

「史上最大の作戦」 温故知新

☆☆☆ どうして「男たちの大和」にノレないのか、こういう映画を観るとよくわかります。落下傘が降下してそのまま井戸の中にするっと落ちてしまう。あるいは、そのまま炎上する家の中に落ちてしまう。なんとも惨めな死に方で、涙も出ない。戦争とはそういうものだ、というのをさりげなく感じさせる。こういう、ノルマンディ作戦の勝利を描くオールスター三時間の大味映画でも、外国の映画は、小さなエピソードをきっちり散りばめる。描き方が大仰じゃないぶん、戦場ではそんなことは日常茶飯事だとわからせて、背筋が凍る。それにひきかえ、「男たちの大和」のエピソードは、あまりにも大仰すぎてしらけるばかり。しかも、エピソードはいろいろあっても、幹になる大和の描写が弱すぎる。もっと工夫があったんじゃないでしょうか。なんだか、「大和」の話になってしまいましたが、言いたかったのは、とにかく、映画をつくる人は、古い映画もちゃんと見ろよ、ちゃんと学べよ、という話。ちなみに、この映画「史上最大の作戦」、40年前の映画です。ヴァージンシネマズで見ました。

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January 02, 2006

ゴールデンシャンプー賞、決定!

2005年度も、黒く汚れかけたココロをきれいに洗ってくれた映画がたくさんありました。その中でも最も洗浄効果の高かった映画を称える2005年度ゴールデンシャンプー賞も、約1名の厳正なる審査のうえ、決定いたしましたので、ここにご報告します。

2005年度ゴールデンシャンプー賞<日本映画部門>
第1位 ALWAYS 三丁目の夕日 <最優秀ファンタージー賞>
第2位 埋もれ木 <最優秀フェデリコ・フェリーニ賞>
第3位 リンダリンダリンダ <最優秀青春映画賞>
第4位 8月のクリスマス <最優秀リメーク賞>
第5位 運命じゃない人 <最優秀構成賞>
第6位 カナリア <最優秀新人賞>
第7位 パッチギ! <最優秀楽曲賞>
第8位 トニー滝谷 <最優秀静謐賞>
第9位 いつか読書する日 <最優秀フランソワ・トリュフォー賞>
第10位 カーテンコール <最優秀歌唱賞>

2005年度ゴールデンシャンプー賞<外国語映画部門>
第1位 エレニの旅 <最優秀ファンタジー賞>
第2位 海を飛ぶ夢 <最優秀安楽死賞>
第3位 シンデレラマン <最優秀正統派映画賞>
第4位 レイ <最優秀音楽賞>
第5位 君に読む物語 <最優秀恋愛映画賞>
第6位 そして、一粒のひかり <最優秀日本語タイトル賞>
第7位 ライフ・イズ・ミラクル <最優秀戦争映画賞>
第8位 ティム・バートンのコープス・ブライド <最優秀根気賞>
第9位 ロード・オブ・ウォー <最優秀武器映画賞>
第10位 SAYURI <最優秀ハリウッド映画賞>

●講評:やはり、日本映画も外国語映画もファンタジーものは強かった。映画は結局ファンタジーの度合いで感動が決まるものなのでしょう(キングコングのような、いかにものファンタジーは残念ながら選外になりますが)。意外な拾い物だったのが、日本映画「8月のクリスマス」外国語映画「ロード・オブ・ウォー」。そして、衝撃的だったのが「そして、一粒のひかり」。DVDでもいいから、映画ファンならぜひ一度観てほしいと思います。

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